
こんにちは。スポーツメンタルコーチの江口康博です。
「これは制約と誓約!覚悟の証!リスクはバネ!制約と覚悟が大きい程、念は強く働く!」
by クラピカ(『HUNTER×HUNTER』)
クラピカのこの言葉は、単なるアニメの設定だけに言えることではありません。
彼が自分自身に課したルール。“他人に使えない念鎖”という制約と、“仲間の仇にのみ使う”という誓約は、自身の力を何倍にも引き上げました。
そして、この原理、実はアスリートにも深く通じるものがあります。
人は「自由にやって」と言われても、意外と自由の中ではうまく動けません。
なぜなら、制約がない状態では、自分の得意な方向にばかり思考が偏り、未知の可能性に気づきにくいからです。
逆に制約があることで「どうすればこの中でベストを出せるか」考え始めます。
それが、新しい自分を引き出すスイッチになるのです。
競技においてはいつも万全の状態や、理想の状況でいられるとは限りません。
そんななかアスリートがパフォーマンスを発揮できるようになるメンタルについてお話していきます!
「自由」よりも「制約」が創造性を引き出す
自由な環境があれば、誰もが最大限のパフォーマンスを発揮できる――
そう思いがちですが、実は逆の結果になることもあります。
心理学の研究では、人は選択肢が多すぎると、選ぶことが負担となり、判断が鈍り、行動が制限される(「選択のパラドックス」)ことが分かっています。これは「ジャムの法則」と言われています。
また、スタンフォード大学の実験では、課題に制限を設けられたグループの方が、創造的な解決策を多く生み出したという結果もあります。
アスリートにとっての「制約」は、時間、体力、環境、そしてルールなどです。
その制約が「どのようにプレーすべきか」を考えさせ、結果として発想や戦略の幅を広げるのです。
たとえば、体格的に不利な選手が技術やポジショニングでカバーするように、制約は新しい工夫を生む起点になります。
“自由”が必ずしも、選手にとって最良ではないのです。
みなさんもこんな練習をしたことがありませんか?
・サッカー:パス本数を制限した練習 ⇒ 選手の判断力・スペース意識が向上。
・テニス:片手や狭いコートでの練習 ⇒ ボールコントロールの精度が上がる。
・バスケ:片側コートのみ使用ルール ⇒ チーム連携の新しい工夫が生まれる。
このようなときには新しいアイデアや気付きが生まれる、もしくは競技の真理みたいなものを閃いたりした経験があったのではないでしょうか。
これは脳科学的には前頭前野の活性化するためです。
特に制約条件下では、問題解決に関わる前頭前野が強く働くと言われています。
余談ですが、
私が先日、某芸術大学の学園祭に行ったとき、グラフィックデザインを学んでいる学生さんから展示に関する説明の中で、こんな話を聞きました。
「デザインを考えるときにPCのデザインツールを使えばなんでも自由に書ける。逆に、段ボールで”ものづくり”をしたときは、物理的にできることに制限があったけど、逆にたくさんの発想や気付きが生まれた」
芸術やデザインの世界でも、制約があった方が良いものができることもあるのですね。
競技を”デザイン”するアスリートにも同じことが言えると考えています。
万全じゃない状況が引き出す“適応力”
人間の脳は、予期せぬ制約があると、前頭前野が活性化し、問題解決力や柔軟性が高まることが研究で分かっています。
つまり、「思い通りにいかない」状況こそ、脳が“よりよく考えよう”と動き出すタイミングなのです。
実際の試合では、体調不良、悪天候、コートの状態、対戦相手が好調など完璧な状況はほとんどありません。
それでも“今の自分で何ができるか”を考えられる選手ほど、現場対応力が高く、崩れにくい傾向にあります。
制約は、「限られた中で最適を探す」トレーニングそのものになります。
だからこそ、本番に強いアスリートは、どんな状況でもそれを”当たり前”と考える、常に不完全さを前提にしているのです。
ハンス・セリエの「ストレス適応理論」では、ストレスに直面したとき、最初は心身に負担を感じるが、次第にそれに慣れ、対処しようとする仕組み(適応機能)が働く、とされています。
・陸上:風の強い日、異なる路面条件での練習が対応力を育てる。
・野球:試合中にバットの感覚や球筋にズレがあっても、修正できる選手は強い。
・フィギュアスケート:リンクの滑り具合が毎回違うが、この感覚適応力の差が結果に直結。
怪我や問題など、”何か”があっても適応してパフォーマンスを発揮するトップアスリートの話もよく聞きますが、逆に”適応力”が強さを生み、成長につながっていきます。
「制約を楽しむ」マインドの持ち方
完璧主義のアスリートほど、「万全でなければ結果が出ない」と思い込みがちです。
しかし、心理学ではこの完璧思考がパフォーマンスの硬直化を招くとも言われています。
一方で、「うまくいかないことも含めて面白い」と受け入れる遊び心のある成長マインドは、ストレスを緩和し、集中力を持続させていきます。
これはスタンフォード大学の心理学者キャロル・ドゥエック教授が提唱した「成長マインドセット」の考え方です。
成長マインドセットを持つ人は、失敗や困難を「自分の能力の限界」ではなく、「学習と成長のための機会」と捉えることができるのです。
たとえば、
・条件の悪い練習環境で「今日は違う感覚をつかむチャンスだ」と思える選手。
・当初のプランと違ったり、思い通りにいかない試合で「この中で何ができる?」と考える選手。
・チームメイトが1人退場になってしまったときに、すぐに「どうすれば勝てるか?」を考えられる選手
彼らは“制約の中での自由”を見つけ、状況そのものを楽しむ力を持っています。
この「制約を楽しむ」感覚は、最終的に心の柔軟性と回復力(レジリエンス)を高めます。
つまり、制約とは可能性を奪うものではなく、自分の中の新しい引き出しを開けるチャンスなのです。
まとめ
アスリートの成長は、「思い通りにいかない現実」との向き合い方で決まります。
制約があるからこそ、思考は研ぎ澄まされ、発想が広がる。
そしてその中で、「自分はまだこんな成長ができるんだ」と気づく瞬間がある。
逆境のなかでも、こんなメンタリティを持つことができたらいかがでしょうか?
それはまさに、“制約と誓約”の力。
「思い通りにならない不完全な中で、自分の可能性を最大限に引き出す。」
その姿勢こそ、真に強いアスリートの条件なのかもしれません。
最後までお読みいただきありがとうございました。
