「楽しむ」ことがフロー(ゾーン)への入口?!

こんにちは。スポーツメンタルコーチの江口康博です。

スポーツは本来楽しめるものであると私は考えています。

スポーツの語源も「あるところから別の場所に運ぶ・移す・転換する・追放する」の意味を持つラテン語「deportare(デポルターレ)」から、「気分を転じさせる」「気を晴らす」といった精神的な移動や転換に変化したという説が有力です。

ただ、現代の日本においてはスポーツを「楽しむ」ことが否定される風潮も存在します。
例えば、勝利至上の考え方では「楽しむ=真剣ではない」と言われたり、部活動でも苦しい練習が美徳とされて、笑いながら練習すると怒られる、なんてこともあるのではないでしょうか。
もちろん人それぞれのスタンスがあって良いと思いますので否定はしません。

ただ、実際にはトップアスリートほど「楽しむ」ことを大事にしています。
ロジャー・フェデラー選手、ウサイン・ボルト選手、リオネル・メッシ選手、マイケル・ジョーダン選手も競技を楽しんでいました。

そもそも「楽しむ」ってどういうことでしょうか。
もしかしたら人によって捉えている言葉の意味が違うこともあるかもしれませんね。

今回はその「楽しむ」とは何なのか?を掘り下げていきたいと思います。

そもそも「楽しむ」こととは?

読んでいただいている方もそれぞれの「楽しむ」感覚はなんとなく掴んでいると思いますので、いくつかの科学的な観点を踏まえて説明します。

1.脳科学的
新しい挑戦が成功したとき、成長やスキル向上が感じられたときにドーパミンが分泌され「またやりたい」とモチベーションが生まれます。
また、運動によって脳内麻薬であるエンドルフィンが分泌され(ランナーズハイもこれ)、セロトニンも分泌され、自律神経が整い、心の安定や心地よさにつながります。

2.心理的
アメリカの心理学者エドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱した『自己決定理論』では、3つの要素が満たされると「楽しい」という感覚が強まるとされています。

・自律性:強制されずに主体的に行動する。「自分で選んでやっている」ということ
・有能性:成長するために練習して、スキルの上達や成功が実感できること
・関係性:集団に属して他人と深い関係を築ける、仲間とつながれること

3.社会的
チームやグループで何かを成し遂げたときの「協力」や「達成感」はオキシトシンが分泌され、幸福感につながります。
また、観客や応援してくれる人の存在は、「見てくれている」「応援してくれている」ことがポジティブな刺激となり、楽しさを増幅させることがあります。
(コラム「観客に見られている方がパフォーマンスが向上する?!」も一緒に参照ください)

「楽しむ」ことの効果

人は「楽しい」と感じるときは、どんどん自分からのめり込んで行動していきます。
これは「内発的動機付け」とされており、最強のモチベーションです。

楽しさがあると、フロー(ゾーン)に入りやすくなります(次で詳しく説明します)

また、前頭葉(特に前頭前野)の活動が活性化し、意欲や柔軟性が向上し、新しいことを試したり、柔軟な動きができます。
ミスや失敗のあとに立ち直れるレジリエンスも高まるなんてこともあります。
(コラム「困難な状況や失敗をしなやかに乗り越えていける「レジリエンス」について」を参照)

その他、疲労感の軽減や免疫力アップ、楽しめると笑顔や前向きな会話が増え、仲間とのつながりを強化、新たな出会いが生まれることもあります。

楽しむことにはたくさんのメリットがありますね。

楽しむことがフロー(ゾーン)の入口

「フロー理論」(心理学者ミハイ・チクセントミハイ)では、自分のスキルと課題の難易度が釣り合うと「時間を忘れて集中する、没頭する」「時間があっという間に過ぎる」「動きが自然に出てくる」と感じる状態となり、これをフロー(ゾーン)としています。

ただし、その活動自体には「楽しい」「やりがいがある」など内発的動機があることが重要条件の一つです。
「やらされている練習」よりも「自分が楽しんで取り組んでいる練習」のほうが、フロー状態に入りやすく、かつ長く持続できると言われています。

大切なことは「楽しい」(内発的動機)が土台にあり、その上で自分のスキルと課題の難易度が釣り合うことです。

あなたも過去に何かに没頭したときは、「楽しい」と思いながら、ちょっと歯ごたえのある課題にチャレンジしたときではないでしょうか?

・すぐには乗れなかった自転車で乗れる距離が少しずつ伸びていったとき
・うまくいかないリフティングを、2回、3回とできたときの喜び
・最初はストライクゾーンにも入らなかったが、狙ったところに投げられるようなったとき 
など

(ゾーンについては、コラム「「ゾーン」に入る人と入れない人の違い」を参照)


楽しむための方法はたくさんありますが、例えばこんなことができますね。

・自分で成長のための小さな目標を立てて、毎日クリアして達成感を味わう
・ちょっと難しい課題を設定してみて、チャレンジする
・単調な練習でもゲーム要素を取り入れて楽しみながら真剣にやる
・仲間、チームメイトと課題を共有したり、一緒に取り組んで達成感を共有する
などなど。

普段やっているトレーニングでも、ひと工夫や少し意識を変えるだけでできるものも多いです。

まとめ

「楽しむ」ことについていくつか掘り下げて、ご紹介させていただきました。

頭ではなんとなくわかっていても、競技において「楽しむ」ことはダメという風潮や周りの視線を意識する方もいるかもしれませんね。そんな方にあえてお聞きします。

「きつい」「しんどい」と思って練習やプレーしていたら良い結果や成長につながるのでしょうか?
楽しんで競技に取り組んでいると下手になったり身体能力が下がるのでしょうか?


どんな競技でも「追い込んで苦しい思いをしないと勝てない」「長時間練習しないといけない」「大会では笑顔や会話など一切無しで集中しないと」と思い込んでいるアスリートはとても多いですが、科学的にはそれで強くなれる保証はおそらくありません。

もちろん、人それぞれのスタイルがありますので否定するつもりはありません。
ただ、あなたがそう思うことで苦しんでいるとしたら、だまされたと思って「楽しみ」ながら競技に取り組んでみませんか?

これまでとは違う自分に出会えたり、パフォーマンスが上がって結果につながるかもしれませんよ。


私の周りのアスリートやビジネスマンでも、かなり根詰めてやっていた方が、楽しむように意識を変えると、驚くほど結果が出たり、自身も幸せな感情になれる方を多く見てきました。
もちろん、取り組んでいることも違いますし、楽しみ方も人それぞれですが、競技や仕事以外でも豊かになり、人生自体がプラスに変わっていっているように思えます。
スポーツメンタルコーチングでは、競技のみならず人生も豊かになっていただくことを意識してサポートしており、そのような方が増えていくことを本当に嬉しく感じています。


最後までお読みいただきありがとうございました。