
こんにちは。スポーツメンタルコーチの江口康博です。
多くのアスリートが「もっと集中しろ」「一点だけを見つめろ」と言われて育ちます。
しかし、心理学の研究が進む中で、
一点にギューッと力む“ガチガチ集中”よりも、周りが自然と見え、意識が広く開いている“拡散した集中”のほうがパフォーマンスは高いことがわかってきました。
多くのトップアスリートもこの”拡散した集中”でパフォーマンスが上がると感じています。
ただ、多くの方がこのことをわかっていても、本番では”ガチガチ集中”をしてしまうことがあり、ここには本人が持つメンタルも大きく関わっています。
あなたの集中は、力んでいないでしょうか?
「ガチガチ集中」の問題点
このデメリットについては、実感されている方も多いと思いますが、あらためてご紹介しています。
一番は、視野が狭くなると同時に「本来は見えているはずのものも見えなくなってしまう」ことです。
これは、認知心理学において「非注意性盲目(Inattentional Blindness)」と呼ばれており、それを証明する最も有名な科学的実験は「見えないゴリラの実験」です。
心理学者のダニエル・シモンズとクリストファー・シャブリスによって行われました。
試験では、白いシャツを着た3人と黒いシャツを着た3人がそれぞれバスケットボールをパスし合っている短いビデオ映像を見せられ、被験者には「白いシャツを着た人たちが何回パスをしたか」を数えるように指示されます。
その映像の途中で画面からゴリラ(着ぐるみ)が中央を横切るのですが、半数近くの被験者がゴリラに気付かなかったというものです。
みなさんも子供のときなど、一つのことに集中していると、他のことに全然気付かなかった、といった経験はありませんか?
このように1点に集中すると見えなくなるものが多くなります。
視野の狭さによる情報の少なさから、相手の予測が効きにくくなってくる。
すると、馬力で何とか対応しようとして疲労が増える。
疲労をするとミスが起き、そのリカバリーも遅くなる。
焦りから身体がこわばり、動きが硬くなる。
これは一例ですが、このようにガチガチに集中することで多くの問題が生まれます。
「拡散」している集中とは?
拡散の集中を一言でいうと、
「周りが自然に見えていて、余白があるのに、今やるべきことにはしっかりアクセスできる状態」
です。
ガチガチの一点集中ではなく、肩の力が抜けた“広がりのある集中” とも言えます。
拡散の集中の特徴は以下の通りです。
・視野(特に周辺視野)が広くなり、周りの音や相手の動きが自然に入ってくる。
・コートの変化、相手の状態、味方の位置など自然と情報が拾えて増えるため、判断力が上がる
・身体はゆるく、動きはスムーズになり、自動運転に近い
・“今ここ”に没頭しているけど、同時に全体を感じている
・少しリラックスしているが、「だらけた集中」ではない
・注意の幅が広いので、ミスやプレッシャーに引きずられず、意識が前に流れていく
(逆に一点集中だと一つのミスにロックオンして意識してしまう)
トップアスリートの脳は、最も高いパフォーマンスを出す瞬間、一点に集中しながらも、周囲を自然に捉える“拡散的注意”の状態に入っています。
これは Joan Vickersの「クワイエット・アイ(Quiet Eye)」研究や Maurizio Bertollo(2016)の研究でも示されており、“ガチガチの集中”とは真逆の、柔らかくしなやかな集中と言えます。
「拡散した集中」をつくるための習慣
まずはメンタル面の習慣です。
なにか一つのことに心がとらわれていると、「拡散した集中」の状態はつくれません。
特に結果への執着や、対戦相手など他人を追いすぎると「ガチガチ集中」になってしまいます。
例えば、こんな状態です。
・勝ちにこだわる ⇒ プレーのミスや得点にばかり目が行ってしまう
・対戦相手に固執する ⇒ 相手の強さやプレーにひきずられてしまう
・ミスを恐れる ⇒ 「成功させなきゃ」「失敗してはダメ」といったことばかり考えてしまう
これでは、一つのことにとらわれ過ぎて、視野が極端に狭まり、呼吸は浅く、動きは丁寧すぎて遅くなります。
「勝たなきゃ」「ミスしちゃだめ」など、自分で自分にルールを設け、その通りにさせようとするのではなく、
すべてコントロールしようとせず、自然に任せる、自分の身体に任せることがポイントです。
そのためにも、頭の中の空き容量が必要です。パソコンでも空き容量がないと処理速度や動作が遅くなることがありますよね。
「今、この瞬間」を感じ取る余白がある心を持つことで、脳が広く情報を感知、処理できます。
あとは自分の身体を信頼してみましょう。
「自分の身体が勝手にやってくれる」
ぐらいの気持ちが力みを取り、視野を広げ、情報処理スピードを上げます。
拡散した集中になるためのワークもいくつかご紹介します。
① 呼吸で視野を広げる
深い息を吐きながら視界の「端」を感じる。周りの空間を“見ようとする”のではなく、“感じる”イメージ。
② ガチガチに気づいたら「外の音」を拾う
相手の足音、ボールの回転、観客のざわめき。これを数秒だけ感じると注意が広がります。
③ 身体を“見ない”
動作中は身体の一部を細かく見すぎない。外側(コート・相手・ゴール)に意識を置く。
④ 試合前、本番前に空間観察
体育館やコートの“広さそのもの”を感じる。これも拡散モードに入る準備になります。
まとめ
「拡散した集中」についてご紹介してきましたが、アスリートに最も必要なものは「余白」だと私は考えています。
実はこれはビジネスでも同じことが言えます。
一つの動作、一つの仕事にガチガチに集中して頑張ることも、ときには重要ですが、そればかりだと”ただの作業”になってしまいがちです。仕事全体のことを俯瞰して考えられず、一つの作業はできても、結果として全体の良い成果にはつながりません。
いかに頭や心の中、そして時間にもわざと「余白」を少しつくり、自分を”最適化”することが、「拡散した集中」の状態となり、よいパフォーマンスを発揮することにつながります。
本番中でも、余白があると、「チームメイトが応援でちょっと噛んだな」「相手選手、髪切った?」「(空を見上げて)渡り鳥の群れが飛んでるな」「友達が応援に来て手ぇ振ってる」など、微笑んでいる状態になります。
プレーには真剣に向き合いながら、こんな感覚を持てたら「拡散した集中」ができたらいかがでしょうか。
最後までお読みいただきありがとうございました。
